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「は?……どういうコトだ」
午後一番にデスクに戻ってきた藤城課長に、私は恐々『退職願』を差し出した。
「い、一身上のツゴウであります」
「………」
“満面の笑み” と思いきや。
彼はさらっとそれを眺めてから、不機嫌そうにジロリと私を睨みつけた。
「理由も聞かずに受けとれないな。
……字、間違ってるし」
「えっ」
意外や意外、彼は私にそれを突き返したのだ。
嬉しい反面、それはそれで困る。
「ししし、しかし課長。コレにはやむをえない事情がありまして…」
何せ命が掛かっている。
課長の冷たい眼光なんかに負けてはいられない。
私は、再びパソコン画面に向おうとしていた課長の手に、再びそれを捩じ込んだ。
「シツコイぞ、四葉。
とにかくそれは受けとれない」
などと、とりつく島もない。何て頑固なヒトだろう。私もついついムキになり、普段のヘタレっぷりを返上して彼に食い下がった。
「困ります!」
押し問答の末。
それでも引き下がる訳にはいかず、とうとうその場に立ち竦んでしまった私に、課長はため息をついた。
「ハァ…
四葉、今晩付き合え。
“事情” とやらを聞いてやろう」
「…ハイ」
私は、力なく頷いた。
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