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そしてさらに奇跡は起きた。
「あのさ…付き合ってよ」
「は、ハイイ?」
会社の近くの洋食屋さんで、香河サンは、照れ臭そうに頭を掻いた。
信じられない。
春が来た。
冬なのに。
「前から言おうと思ってたんだ。でも君さ、いつもサッと帰っちゃうだろ。中々伝える機会がなくて…」
“ええ、喜んで!”
即答したい。したいのは山々だ。
しかし…
今の私は、生殺与奪権をドケチなオニに握られるシモベの身。御主人様にお伺いを立てなければ何も決められない。
「あ、あの~、私はとっても!
本当にとても嬉しいんですけど。
その…ホゴシャに聞いてみないと…」
彼は驚いたように目を見開き、それならすぐに残念そうな顔をした。
「そっかあ。
四葉ちゃんって、お嬢様なんだ……随分と厳しい家なんだね」
「ええまあ…」
だからいっつも帰るの早いんだ、と彼は一人合点した。
“いいえ違いマス、オニのお世話があるんです。
その上、ソープに売ろうとした親の子で、今はドレイの身分です”
言ってしまいたいのを辛うじて堪える私に、
“いい返事まってるよ”
と、香河サンは、いつものように優しく微笑んでくれた。
彼とは、『午後から取引先だから』と店の前で別れた。
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