課長の背中に

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ドロボウか?  ここ最近の不幸な出来事により、すっかり度胸のついた私。  ゴクリと唾を飲み込むと、玄関ロッカーに仕舞ってある竹箒を握る。   「オノレ、曲者おっ!!」  先週見た時代劇で、くの一が言ってたセリフを思い出し、叫びながら竹箒を振りかざす。  しかし。  お城のような螺旋階段の踊り場から顔を出したのは、キラキラと髪を金色に染めたモデルみたいな女の人だった。  彼女は妖精のような軽やかさで階段を駆け降りると、つっけんどんに言い放った。   「ちょっとアンタ、新しいメイド?」 「あ…ハイ…」  眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せている彼女をポカンと見つめる。  さては…カチョーの新彼女か?  イヤ、違う。この物言いは、誰かさんにそっくりだ。 「何で私の部屋があんなに汚れてる訳?ちょっと来なさいよ!」 「ひえっ」  彼女は強引に私の腕を引っ張り、階段を上がって行った。  私は確信した。  この横柄さは間違いない、藤城家ご令嬢『レイカ様』だ。  彼女は私の目の前で、人指し指で窓枠のホコリをツーッとなぞった。 「ほらね?」 「ハイ…」  サトウさんめ、またサボったな…  着替える間もなく、私はお掃除を始めた。
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