課長の背中に

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「あの~、もしや…レイカ様ですよね?」 「他に誰がいんのよ」 「イエ、てっきり泥棒かと…」 「バカね、この家にそんなの入れる訳ないじゃない……血を見るわよ」  冗談とも思えない語尾の震えに、ゾクリと背筋が寒くなる。  セコムと犬以外にも何か仕掛があるんだろうか。以後、気を付けよう。  サカサカと部屋を履き清める。  黙っているのも何なので、ドレッサーでマニキュアを剥がしている彼女に、私は自己紹介を始めた。  仮にも一緒に暮らすわけだしね。 「えーと、私の名前は…」 「ああ、いいの。どうせ覚えられないから」  ……ああ、そうですか。  そうしていたところ、ズッシリ重厚な玄関扉の開閉音が聞こえてきた。  げっ、まずい。  よりによって、珍しく早い藤城課長のご帰宅だ。  早くお出迎えしなければ、あのお方は物凄く不機嫌になってしまう。ああ見えて、彼は意外に寂しんぼなのだ。  焦った私は箒を投げると、急いで階下に向かおうとした。  しかし彼女は、私の腕をむんずと掴まえ、ジロリと私をねめつけた。 「ちょっとアンタ?ここ、まだ終わってないでしょ」 「い、イヤその…だってカチョーが…御主人様が…」 「放っておきなさい。ガキじゃないんだから…それより早く私のトコ、済ませて頂戴」 「そ、そんなあ…」  押し問答しているところへ、イライラしながら彼が上がってきた。
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