課長の背中に

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 あれ、ここは?  私は、ガバッと跳ね起きた。  辺りをキョロキョロ見回すと、どうやらここは天国じゃない。  ボロのクロスの天井の、左端の不気味なシミは間違いない。私の部屋だ。  ……あったかい。    見ると、隅っこに置きっぱなしだった古ぼけたストーブには火が入り、ヤカンがシュンシュンと湯気を立てている。  え、でも何で?  私は確か…傘を届けに行って、それから____  首を傾げたところに、深く柔らかな声が響いた。 「目が覚めたか、良かった」  声の主はうっすら微笑むと、ベッドサイドに腰かけた。 「カチョー…うわわっ!」  声の主は藤城課長。  その彼が、何の気なしに私の額に手を当てた。 「まだ熱が高いな」 「ななな…何を!?」  カオ……近すぎる!  ドギマギしている私に、彼は淡々と事の顛末を語りだした。 「出先から戻ったら、犬どもが騒いでいてな。門に入るなり、俺の袖口をくわえて引っ張っていくんだ」  見ると、一張羅の袖口が無惨に引き裂かれてしまっている。 「あああ、モッタいない」  高いのに! 「それはいい。手は食われなかったんだから。  それよりも、驚いた。  オマエが庭の小路で…真っ赤な顔して倒れてて、犬が一匹寄り添っていた。  全く、いつの間に手懐けたんだか。  良かったな、危うく凍死してたところだぞ」 「へ…え…」    そっかあ……  ワンちゃん達、ありがとう。 (ちょっとケモノ臭いけど)
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