課長の背中に

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 頑張った挙げ句、叱られて……  なんだか、とても惨めだ。  目の奥にツンと刺激が走った。  咽が詰まって、言葉が上手く出てこない。 「あ、イヤ……すまない」    私の様子を察したのか、彼は少し語気を緩めた。 その上、あり得ないことに両膝に手をつき謝るような姿勢をとった。 「俺の…配慮が足らなかった」  オヤビンが、御主人様が謝っている。  私は慌てた。 「そ、そんなこと無いですっ、私がペース配分できなかったのが悪くって…その。  運んでくださって……ありがとうゴサイマシタ」  ペコリと頭を下げた私に、彼は優しく目を細めた。  そうしてスッと立ち上がると、部屋を出るのかと思いきや。  オヤ?  コタツの上のトレイを持って、再びベッドに腰かけた。 「課長、それって…オカユ…ですか?」 「ああ」  まさか。  でも、今はコック長さん、お休みだし… 「カチョーが…ご自分で作った、とか?」   「……簡単だと思っていたけど…なかなか難しいものだな。底を焦がしてしまった」  恥じ入った様子で顔を赤らめる彼は、いつもの仏頂面からとても想像できない。  彼は流れるような所作で、一匙それを掬うと唇に近づけた。フーッと細い息をかけて冷まし始める。  まさか…な。イヤ、ナイナイ。  いや、でも… 「ホラ、口開けろ」   や、やっぱ…り?  彼は、大真面目にスプーンを上げて私に迫った。
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