母の記憶

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 食堂のテーブルに足を上げ、だらしなく椅子に背を凭れているのがショウマ様。  対する藤城課長は、彼からは少し距離を取り、背筋を伸ばして立っている。 「何を企んでいる?」  おもむろに尋ねた課長に、ショウマは大袈裟に溜め息を吐いた。 「あのさ~。  2年ぶりに帰ってきた弟に、それはないでしょ。  ここは涙ながらに盃(サカズキ)を交わして、無事を喜ぶシーンなんじゃない?」 「軽口は結構だ、質問に答えろ」  課長がピシャリと切り捨てると、ショウマ様の顔から、にわかに笑いが消えた。 「相変わらずだなあ、兄さんは。  別に、何も企んでないよ。兄さんの地位を脅かすような事はね。忘れたの?決着はもう2年前についた筈だ。 それにね…」  彼は大義そうにテーブルから足を降ろすと、にわかに席を立った。  課長の傍らにスッと立ち、“とん” と親しげに肩を叩く。 「安心しろよ。  僕は兄さんみたいにね、あの父親の言いなりになってまで後釜に座りたいとは、死んでも思ってないからさ」  そう言い捨てると彼は、立ち尽くす課長に背を向けて歩き出した。
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