母の記憶

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 あわわわわ、まずいっ。  慌てて逃げようとしていると、 「待てっ」  課長の厳しい声がして、ショウマ様が足を止めた。 「ちょっと待てよ。  お前が別に良くても、お前の周りは黙っていない。同じ事が繰り返されないとも限らない」  再び深い溜め息。 「あーあ、シツこいアニキだなあ…  そんなに心配なら、イイコト教えてあ・げ・る」  彼の表情(かお)は、もういつも通りの笑顔に戻っていた。 「父はね、2か月後の自分の70周年生誕祭(つまりお誕生会ね)の席。  京極との婚約披露とあわせて兄さんを次期総師として公式発表するつもりなのさ。  どう?これで安心した?」 「な…  何でお前がそんな事を!  後藤田か、そうだろう。お前、まだヤツと何か企んで…」 「ないったら。 『このままでいいのか』って、 アイツが勝手に連絡してきただけ。 “構わない”って言ってやったよ?ボクは。  じゃあね、兄さん」 「まてっ、まだ話は…」  今度こそショウマ様は、振り返らずに歩きだす。  うーん、そっかあ…  跡目争いというやつなんだ。  2人は、仲悪いなんてもんじゃない、思いっきりゴタゴタしてるんだぁ。  お風呂でケンカしてたときは、そんな風に見えなかったけどなあ…  考え込んでいたところ____  ギギィイイイ…  しまったと、思った時には遅かった。 「うわっ!!」 「あれ?君は…」  にわかに開いた扉に押され、無様にシリモチをついた私は、そのままの格好で後ずさった。 「わわわ、す、スミマセンっ。決して盗み聞きするつもりではっ」
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