母の記憶

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 私は思いきって、もうひとつの気がかりを彼に尋ねてみた。 「それでその……課長のお母さんは?」 「俺は母親を知らない」     答えにくい質問に、彼はキッパリと答えてくれた。 __本当に何も知らないんだ。  どこの誰でどんな顔で、何をしているのか、今生きているか死んでいるかさえ…  訊いたって、誰も教えてくれなかった。  将馬は母親を知ってる。  いつの間にか居なくなっていたけど、少しの間この家に一緒に住んでいた。  小さな頃はそれが悔しくってな、よく苛めてたよ。  最初、目を掛けられていたのは将馬の方だった。  あいつは要領よくってな、不器用だった俺と違って何でもすぐに出来るんだ。 焦った俺の守役は、ある日 『頑張れば母親に会わせてやる』 といった。  俺はそれを信じたね。  それから本気で頑張って…  何だったかは忘れたが、半年後に初めてアイツに勝てたんだ。  父に誉められ、撫でてもらって、嬉しかったし誇らしかった。  だがそれで、母親に会えることはなかった。 “もっと頑張らないといけない”  言われて、ずっと努力をし続けた____
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