4704人が本棚に入れています
本棚に追加
__10歳のとき。
1度だけ、それらしき人を見た。
その頃にはもう俺は将馬には何一つ負けなかった。
だがその日。
いつまでも遂げられない約束に、しびれを切らして守役を問いつめると、奴はついに本当の事を白状した。
『貴方が母に会えることはない』と。
俺はたまらずバアサンの部屋に逃げ込んだ。
すると、そこには…
初めて見る女の人が、立っていた。
“バアサンの娘” なのだと彼女は言って…
俺にアメを2つと、冬だったから、ピッタリの手袋をくれた。
少しだけ喋った後、別れ際には『頑張って』とキレイな顔で笑っていた____
「もしや…それは…本当の?」
“分からない”と彼は首を振った。
「その人には2度と会えなかったし、バアサンの部屋には、何故か写真ひとつなかったんだ」
__やってられなかったんだろうな、その時の俺は。
絶えない競争の毎日とか、一番信頼していた大人の裏切りとか、その他諸々が。
子供心に勝手なストーリーを作り上げた。
あの女の人は俺の母親でバアサンの娘。将馬の母親に疎まれて追い出された。
バアサンは俺の本当のバアサンで、娘である母親には会えないけどいつも俺を気にしている。
あの女(ひと)が、バアサンが頑張れと言ったから。
俺は絶対、藤城の当主になって、
母と婆さんのカタキをとってやるんだと。
将馬もその母親も、父もその周りにいるヤツも、全てを見返してやるんだからと____
最初のコメントを投稿しよう!