母の記憶

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__10歳のとき。  1度だけ、それらしき人を見た。  その頃にはもう俺は将馬には何一つ負けなかった。  だがその日。   いつまでも遂げられない約束に、しびれを切らして守役を問いつめると、奴はついに本当の事を白状した。  『貴方が母に会えることはない』と。  俺はたまらずバアサンの部屋に逃げ込んだ。  すると、そこには…    初めて見る女の人が、立っていた。    “バアサンの娘” なのだと彼女は言って…  俺にアメを2つと、冬だったから、ピッタリの手袋をくれた。  少しだけ喋った後、別れ際には『頑張って』とキレイな顔で笑っていた____ 「もしや…それは…本当の?」 “分からない”と彼は首を振った。 「その人には2度と会えなかったし、バアサンの部屋には、何故か写真ひとつなかったんだ」 __やってられなかったんだろうな、その時の俺は。  絶えない競争の毎日とか、一番信頼していた大人の裏切りとか、その他諸々が。  子供心に勝手なストーリーを作り上げた。  あの女の人は俺の母親でバアサンの娘。将馬の母親に疎まれて追い出された。  バアサンは俺の本当のバアサンで、娘である母親には会えないけどいつも俺を気にしている。  あの女(ひと)が、バアサンが頑張れと言ったから。   俺は絶対、藤城の当主になって、  母と婆さんのカタキをとってやるんだと。  将馬もその母親も、父もその周りにいるヤツも、全てを見返してやるんだからと____
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