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必死になって逃げ込んだ裏路地。身を屈めて息を殺した。
漏れ出そうになる荒い呼吸を懸命に堪えて口元を押さえる。
「どっち行ったッ」
「ちょろちょろしやがってあのクソガキ……ッ」
ビクッと肩が大きく揺れた。男たちの声はまだ近い。音を立ててしまわないように、奥へと静かにあとずさった。
少しでも距離を取りたい。暗がりの中に一歩ずつ下がった。
ジリジリと後方に逃げ込むにつれて男達の声は小さくなっていく。しかし緊張感は消えない。
安堵よりも恐怖の方が遥かに強く、心臓は忙しなく煩いままだ。
あいつらに捕まってしまったら、今度こそ何をされるか分からない。情けないが俺にできるのはこうして無様に逃げ回ることだけ。
殴られて切った口の端が痛い。そこをグイッと手で拭った。
休んでいる暇はないから、暗がりから踏み出て走りだした。
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