戻ってきた黒傘

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 ここまでしてくれなくてもいいのに。わざわざ可愛い紙袋を用意してわざわざ可愛いカップケーキまで作った。  人の善意を踏みにじるわけにもいかずに紙袋はひとまず受け取ったものの、どうしたものか。喜ばしい贈り物ではない。  正直なところかなりの躊躇があったから学校では食わずに持ち帰り、そしてそのままバイト先に行くと、駐車場からちょうど出てきた中川さんに捕まった。 「うぇーいっ、ひっなたーッ! おかえりー!」 「どうも。お疲れ様です」  こんなに陽気な弁護士さんは全国探してもこの人くらいだろう。  裁判所から帰って来たところだろうか。  事務所の玄関までの長くはない道のりで、俺にはいかにも不釣り合いな可愛い手提げ袋にも気付いたようだ。  その視線はすぐさま袋の中へ。  見るだけでは飽き足らず、指先でクイッと入り口を広げてきた。 「何これ? 傘?」 「……おやつです」 「陽向はおやつに傘をさすの?」 「…………時々」  中身は受け取った時と変わらない。  黒くてゴツい傘と、お礼のカップケーキ二つ。 「ほうほう、なるほど。そうかいそうかい」 「…………」 「やるじゃんかよ陽向」 「いえ……」 「これプレゼントでしょ?」 「いえ、プレゼントというか……前に傘貸したお礼にって」 「ふーん、ほーう。そうかそうか」 「……カップケーキなんですけど、よければ食べますか」 「え?」 「あ、でも手作りらしいので抵抗あれば……」 「えーないよないよ手作りドンとこいだよ食えるもんは食うさ貰っちゃっていいの? 俺ホントに食べるよ」 「どうぞ」 「わーい。おやつゲットーぉ。比内の野郎には内緒にしとこうぜ俺がドツき回されるから」
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