戻ってきた黒傘

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 傘のお礼にわざわざカップケーキまで焼いてくる子だ。  ちゃんとしたおうちで育てられた子なのだろう。ちゃんとしたいい子なのだろう。  だけど俺がいま欲しいのは、当り障りのない断り方だ。  気まずいし気が重いし学校行きたくないし、女子を傷つけない方法も俺は知らない。  しかし長谷川さんがくれたアドバイスは、俺の求めていたものとは違った。 「付き合っちゃえば?」 「え……いや、その子の事よく知らないですし……」 「かわいいんでしょ?」 「可愛い……まあ……はい」 「じゃあいいじゃん。ものは試しだ」 「…………」  大人ってみんなこうなのか。 「今はちょっと、そういうのは……」 「何言ってんだよ、今こそだろ。高二ってのは彼女作るために存在してる時期だからな」 「初耳ですが……」 「じゃあ今覚えな。常識だ」 「…………」  そんな常識を俺は知らない。聞き覚えのない常識をお勧めされた。  仕事が早くて頼れる長谷川さんは、思っていたより軽かった。
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