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傘を貸したのはそんな理由だった。哀れな女の子を助けたわけじゃない。
ただただどうにも、目障りだった。
鬱陶しい雨に打たれながら走った。
アスファルトを踏みつける足元では派手に泥水を跳ねさせながら、吐き捨てるように笑ったあの日の自分を、傘を返されて思い出した。
あれはどちらかというと嫌な記憶だ。どちらかというより、完全に嫌な記憶だ。
あの辺りの全ての状況を含め、なるべくなら思い出したくなかった。
そうやって見ず知らずのなんの罪もない女子に対して一方的に募らせた嫌悪感。
ギスギスとすさんだあの時の心境が、その子の印象を損ねさせた。それが残ったままになっていた。
隣のクラスの堀口さん。最初の委員会でそれぞれ自己紹介をした時にその認識だけは持った。
けれど堀口さんというその人が、あの時の不愉快な女子だとはサッパリ思っていなかった。
顔をまともに見ることもせずに傘を押し付けたのだろう。
歪んでいた。心の底から。見るもの全てに嫌気がさしていた。
それくらい、全く、余裕がなかった。
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