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「……ん……」
頭がグラグラする。しっかり回らずぼんやりしていた。
目を開けて最初に見たのは白くて少し高めの天井。仰向けのまま額に手を当て、それによって擦れた手のひらにピリッとした痛みを感じた。
顔の前に右手をかざした。夕べここにかすり傷を作った。あいつらから逃げ出す直前、地面に張り倒された時だ。
一つずつ思い出す。手のひら越しに上を見上げる。
何度見上げても目に入るのは白くて高めの天井だ。室内は程よく暖かく、ドアの横の壁際にある重厚な焦げ茶の書棚には、分厚くて難しそうな本がずらりと列になって並んでいる
。
ここはどこだ。なぜ俺はここに。
昨日はあいつらから逃げ切って、深夜の街角で腰を下ろして。それで、俺は。
「…………」
どうしたか。
「っ……!」
はっとしてガバッと身を起こした。その弾みで体の上に掛けてあった黒いコートが床の上にトサッと落ちた。
見覚えのないシンプルな部屋。見覚えのないフカフカしたソファー。
誰の物だか知りもしない、少なくとも俺のじゃないコート。
自分の身に何が起きたか分からない。動転しながら前方をきょろきょろ見渡した。
目に付くのはドア。逃げるか。どうする。
しかし数秒も経たないうちに、後ろから投げつけられた声。
「おい」
「ッ……」
ビクッと肩が跳ね上がる。反射で振り返り、今さら気付いた。
部屋には男の人がいた。デスク越しにこっちを見ている。
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