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その人の、目鼻立ちに思わず息をのんでいる。異様なまでに整った顔。
精巧な人形を思わせるような、それでいて威圧でもするみたいに、鋭く冷たいその目元。
きつい視線はじっと俺に向いている。背筋が凍るような緊張感が内側から一気に込み上げてきた。
「ぁ……」
「コート拾え。汚れる」
「え……あ、はい。すみません……」
この黒いコートはこの人の物なのだろう。それを慌てて拾い上げると続けて短く指示された。
「そこにかけておけ」
「……はい」
視線で示されたコートハンガー。壁際にある木製のそれに手にしたコートを掛けにいき、振り返ってその人を窺う。
そこでバチリと目が合った。
「突っ立ってねえでこっちに来い」
命令しか飛んでこない。
厳しい目つきに気後れしつつもデスクの前まで恐る恐る近付く。物理的な距離が縮まって余計に緊張感が増した。
椅子に深く腰掛けたまま、品定めでもするかのように俺をじっと見上げてくる。
耐えがたいこの威圧感。おずおずと顔を俯かせて不自然に目を逸らした。
「あの……」
「なぜあんな所にいた」
小さな呼びかけは見事に無視され、前置きもなく投げられた問いかけ。
「……え?」
「今朝ここに来たらお前が入り口を塞いで寝てた。危うく通報するところだったぞ。退かそうとして触ったら冷たくなってたからな。死体かと思った」
「え、と……」
静かなのに良く通る声は淡々と事実を述べた。それによってどうして自分がここにいたのか理解する。
助けてくれたようだ。ならばまずはお礼を言わないと。
そうは思うがこの人の視線にすっかり縮こまっている。
「おい」
「っはい……」
大袈裟なまでにビクついて応えた。理屈ではなく怖かった。
俺のこんな失礼な態度にこの人の眉間もきつく寄った。睨んでいるのかそうでないのか、厳しい目付きに晒される。
「お前はウチに用があってあそこにいたのか」
「え……?」
「……そうじゃねえなら帰れ。ガキがいると仕事の邪魔だ」
「あ、あの……」
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