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オロオロさせられるばかりでサッパリ意味が分からない。
けれどもわざわざ見知らぬガキをここまで運び入れてくれた人だ。ご丁寧に自分のコートまで掛けて。
逸らされることのない視線は厳しいうえにとても怖いが、いくらなんでも一言の礼もなしに立ち去るのは不躾と言うもの。
「あの……ご迷惑をお掛けしまして、すみません。ありがとうございました」
「…………」
ぺこりと頭を下げた。この人からの返答はない。
頭を上げるタイミングに戸惑いつつも、元の姿勢に戻してからもう一度だけ会釈する。
極力目を合わせないようにしながらぎこちなく顔を上げた。
「それじゃあ、あの……俺はこれで……」
目、と言うか。雰囲気が怖い。醸し出される空気感は全てを凍りつかせるようだ。
踵を返したこの足は逃げる勢いで出口を目指した。そそくさとドアノブに手をかけて捻る。
しかし扉を開ける寸前、ググッと外から押し開かれた。
えっ、と思ったその瞬間にはバッと開け放たれている。
向こうからひょっこり現れたのはまたもや知らない顔だった。
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