2641人が本棚に入れています
本棚に追加
「そーやって比内はさあ、言い方がいちいちキツイんだよキミはー。可哀想にこんなに怯えちゃって。ねえ?」
「え……」
入ってきたその男。言いながら俺の両肩をガシッと掴んだ。
顔はとてもにこやかなのにその手つきには遠慮がない。
はいはいそっち戻って戻って。呑気な口調で言われながらソファーに連れ戻されている。
ほとんど無理やりに近い形でストンと着席させられた。ふかふかとした質感のシートに腰が沈み込んでいく。
「……あの」
「ごめんねー、このおっさんの目つきが悪すぎて怖がらせちゃったね。ほら比内、キミも謝りなよ」
「うるせえ黙れ」
溜め息と共に聞こえてきたのはそんな一言。ソファーに座らされたまま横方向に顔を向けた。
ヒナイ、と呼ばれたその人は、鬱陶しそうに頬杖を付いている。
黙れと言われた当の本人は全然めげる様子もない。にこにこと俺の隣に座ってソファーの背凭れに寄りかかった。
「キミはねえ、そんなんだから方々に敵ばっかり作るんだよ。たまには愛想良くにっこり笑ってみたらどうだい。顔だけは完璧なのに表情作りが最悪なせいで台無しだ」
「うるせえっつってんだろクソが。無駄口叩いてねえで仕事しろ」
「あーあコレだよ。怖い怖い」
「あ?」
イラッとした様子で低く呟く。その声を耳にして顔を青くさせたのは俺だった。
隣のこの人はニコニコしたまま、まるで子供にするかのように俺の頭をよしよしと撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!