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状況についていけない。隣の男は意味不明だし、指先でイライラと机の表面を叩いているあの人は怖いし。
デスクの向こうの存在は恐怖でしかないが頭を撫でられ続けるのも困る。徐々にこの身は縮こまっていった。
どうしたものかと困惑していれば、その人が頬杖をついたまま不機嫌そうに口を開いた。
「……おい。やめてやれ」
「いやー、いいねなんか可愛い。干からびた心が癒される」
「やめろ」
冷淡なその口調。鋭い目つきまでうっかり直視して今度こそ心臓が凍り付いた。
「あーほら。比内がまた怖い顔するからすっかり怯えちゃってるじゃん」
「え、いえ……」
二人の視線に挟まれて居心地悪く俯いた。
隣の男は面白そうに俺の肩に腕を回したが、それまで頬杖をついていたその人は不意にスクッと立ち上がった。
怖々目を向ける俺の方にツカツカと歩いてくる。
目の前まで来たその人を見上げる。
ガシッと、頭を掴まれた。
「ッ……」
なんで。どうして掴まれた。ほぼ鷲掴みと言っていい。
俺の頭に手を置きながら強引に目を合わせてくる。
「おいガキ」
「はっ、い……」
思わずどもる。そして隣からは場違いに呑気な声が。
「比内コワーい。どうすんのさこのコ、すっごい怖がってるよ」
「てめえは黙れ」
「ぎゃッ」
蹴りつけられた隣の男。俺の肩に回っていた腕も勢いよく払い落とされた。
それをやったこの人は、俺を真正面から見下ろしている。
「お前がいるせいでさっきから俺の仕事が中断してる。このクソバカ野郎は相手にしなくていいから早急に出て行け。ここはガキが遊びに来るような場所じゃねえんだよ」
「ちょっとヒナイー。有能なパートナーをクソバカ野郎呼ばわりはないんじゃないの。俺が普段どれだけキミのためにあくせく働いてると思ってんのさ」
「黙れと言ってる」
低音がこっちにまで突き刺さる。声を落とされた先は俺の隣だったが視線は俺に向いたまま。
睨み殺されそうなその鋭さに、ごくりと喉が鳴っていた。
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