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ファイナとアークの言葉に、ミナはかつての自分を思い出して言った。
「あっ、そうですよね。私も勤めに出るまで身近な所にしか出掛けませんでした」
「勤めって、16歳からよね?それまでどうしてたの?」
11歳までは近くの学習場で読み書き等を習うことが、この国では定められている。
16歳から勤め始めるのが普通で、それまでの4年間は、騎士ならば士官学校に行く。
「フェスジョアの王立技能学校に行ってましたよ。そこで色々資格取りましたけど…もう選別師資格以外実用できませんね。忘れちゃった」
「そんなもの?」
アークの言葉に、ミナは仕方なさそうに、恥ずかしく思いながら言った。
「長いことやる機会なかったですし、無理にしようとも思いませんでした。怠け者なので」
「機会ね…」
「あっ、でも、大抵のひとは、資格を活かせる職場に就いてると思いますよ。私は取った資格が多すぎて全部を活かすには無理があるというか…、選別師資格だけで充分やってこれちゃったんです」
「それだって活かしていたには違いないじゃない?」
アークが言うと、ミナは恥ずかしそうに笑った。
そんなことを話しているうちに目当ての工場に着き、アークたちはまず、その硝子工場の奥にある作業場の見学者通路に入った。
そうして、それら作業の光景を見て満足すると、手前の売り場の方へ行き、様々な商品を眺める。
その工場では、硝子の食器類が多く、城ではあまり使われないそれらに、アークは感心したり、美しさに見入ったりしていた。
「ああ…、でも買って帰るわけにはいかないわね」
アークの残念そうな声に、ミナは首を傾けて言った。
「そうですか?食堂でなく、自室で使うようにしてはどうでしょう。それなら対応してくれるのではないでしょうか」
ファイナも頷いた。
「朝食で使うようにしたらいい。1人のときと、ほかの者がいるとき、状況に応じて揃えるといいんじゃないか?」
ミナは自分の案を認めてもらえたことが嬉しく、喜んで言った。
「それならいろんなものが買えていいね!陶磁器や、木の食器からも選べるし、何より、買えるものがある方が楽しめるよ」
アークは期待に頬を染めた。
「いきなり買って帰ってもいいかしら?」
ファイナがにこりと笑った。
「まずはひと揃い買ってみたらいい。食後の茶器にしたらいいんじゃないか?」
そう言って、ファイナはアークを茶器のある方に促した。
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