水の側宮の奮起

3/3
前へ
/266ページ
次へ
「まあ…、そうですね。サリはいつでも懸命にやり遂げようとするから。それだけの緊張感はどうしたって(おもて)に出ます。でも、たまには失敗してもいいんですよ。やり直す、ということが、大抵はできますからね」 サリにはとても信じられなかった。 失敗してもいいだなんて。 「むしろ失敗しなければ学べないこともありますから。そう悪いことでもないんです」 続けてリザウェラは、それで、と言った。 「具体的には何をするんです?」 サリは不安そうな顔でリザウェラを見た。 「修練室の保護をするんですわ。ほかに被害が及ぶのを防ぐのです。騎士の方々は強い力をお持ちとかで、特に強固な術が必要なのですわ」 ミナが以前話したところによれば、一般の者は1000から100000カロン、騎士は1000000から6000000カロンの力量を有している。 もちろん、四の宮に特に大きな力量の者が来ないとは言えないのだが、仮に壊されても他の宮がある。 だが、たったひとつの黒檀塔を、王城を守る砦を、異能の制御不能により内側から破壊するわけにはいかないのだ。 「術語は既に決まっているのですか?」 サリは首を横に振った。 「まだですわ。それも今度の協議で決めますの」 リザウェラは、うーん、と言って、天井を見上げた。 「そうだ。一度黒檀塔に来られませんか?鍛練場ではなく、中を案内しますよ」 サリは、ぱちぱちと目を(しばたた)いた。 「黒檀塔を…ですか?」 リザウェラは笑って頷いた。 「今までは町を見て結界修復、構築の助けとしていたでしょう。今回は黒檀塔内のことですから、黒檀塔を見てみてはどうかと思うんですが…どうです?」 サリは想像してみた。 黒檀塔…そこに住む騎士たち。 そこにはどんな光景があるのだろう? 「わたくし…行ってみたいですわ!」 リザウェラはにっこり笑った。 「ついでに食事もしていきませんか。帰りは送ります。今日は何か予定が?」 サリは急いで記憶を探った。 大丈夫、何もない。 「わたくし、行けますわ!」 元気な声に、リザウェラは笑みを広げた。 「では今日、仕事が終わったら、鍛練は休んで黒檀塔を回りましょう」 「楽しみですわ!」 盛り上がる2人を交互に見て、ハルとスエイドは顔を見合わせ、そしてまた、サリとリザウェラに目をやるのだった。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加