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彩石判定師の部屋
彩石(さいしゃく)判定師の部屋は王城にふたつある。
ひとつは仕事部屋だが、もうひとつは居住用だ。
現在の彩石判定師ミナ・ハイデルは、その居住部屋で寝起きしている。
今朝もその部屋で起きた彼女は、時計を確かめて寝台から出た。
6時少し前を示している。
きちんと身支度して、露台に出ると、朝の空気を吸い込む。
今朝もレグノリア区はいい天気だ。
それからミナは、露台の柵から身を乗り出して、隣室の露台を覗こうとしたが、目当ての人物がそれより早く、境となっている植え込みの上から顔を出した。
それを見てミナは、ぱあっと笑顔を広げた。
「おはようございます!」
彼、風の宮公デュッセネ・イエヤ…デュッカは、おはよう、と返して、元気だなと言った。
ミナは考える…今日は気持ちのよい朝だ。
胸がほんわりと温かい。
ミナはゆったりと笑顔を見せた。
「昨日楽しかったから。ですよ」
王城の図書室で過ごしたひととき。
護衛もなく何も気負うことがない…それは今のミナにとって得難い時間だった。
デュッカは、そうかと言って、続けた。
「そちらへ行ってもいいか」
「食事にはまだ早いですが…」
「だめか?」
「いえ、いいですけど」
そう返すと、デュッカは頷いて、急いで部屋の中に入る。
ミナの気が変わらないうちに彼女の部屋に行こうと思ったのだ。
ミナはちょっと首を傾げて、そして考えることをやめた。
寝室に戻り、隣室となる居間に移動して、デュッカが来るのを待つ。
ここ、彩石判定師居室は、わりと広い部屋だ。
隣の四の宮居室の倍ある。
それは遠い昔にいた彩石判定師のための居室で、今はミナのためにある。
昔も今も、理由は同じ。
彩石判定師を害させないための措置だった。
彩石判定師はそれだけの価値を持つ者だ。
そう、かつての人々は思ったし、今も思われている。
それ以上に。
大事に、思われていた。
今も思われている。
証しでもあった。
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