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ただ、長期間に渡る事前の備えではなく、火事が起こってから対処するための術語だ。
ルークはそのひとつひとつを見ていき、それらが、小規模なもの…家ひとつ分程度の規模であることに気付いた。
ルークにもできないわけではないが…家を一軒一軒守るより、町ひとつをまとめて守る方が、負担は少なかった。
知らぬ間に首を傾げていたらしい。
不審げなルークの様子に、近くを通りかかったミナが声を掛けてきた。
「ルーク、どうかしました?」
「え?うーん、ちょっとね…こう、もっと大きな術を期待してたっていうか…」
ミナは身を屈め、その術語を見て、言った。
「騎士ひとりが守れるような規模ですね…うーん、例えばですけど、フェスジョア区で火災が起こったら、ルークが着くにはどうしたって時間がかかりますよね。その間、対処するのは騎士になる。彼らのための術語なんじゃないでしょうか…」
「僕用のはないのか…」
がっかりしている様子のルークを困ったような笑顔で見て、ミナは言った。
「ルークほどの力を持っていれば、術語の必要なく、消火できるはずです。ただそれは、大火への対処ですね…それ以前に四の宮がいるし、祭王が出るときは、アルシュファイド存亡の危機でしょうね…」
ルークはがっくりと肩を落とした。
「そうだね…僕、まるで火災を待ってるみたい」
「そんなことはないでしょう。ただ、ルークが動くとしたら事前になるかと」
ルークは顔を上げたが、目の前の資料を見る目は暗い。
「でもないんだよね、事前の仕掛け」
「まあ、火災となると、担当は水か火でしょうからね。アルシュファイドでは、既にそちらで対処して、記録はそもそもないのかもしれません。やるとすれば、新たに自分で考えることになるのでしょう」
「自分で…」
「でも、ルークは既に絶縁結界を負っていますし、火山結界も構築する…自分でカザフィスの森林まで対処するんですか?」
言われてルークは、当初の目的を忘れていたことに気付いた。
自分用ではなく、ほかの属性に、祭王として指示を出したかったのだった。
「うっ、そうだった、僕、目的ずれてた」
ミナは仕方なさそうに笑って、ルークを見た。
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