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想い人の横顔
藁の日の夕方、カィンとサリは水の宮に来ていた。
彩石選別師資格試験の訓練をするためだ。
既に朝と昼に来ていて、どちらも問題なかったが、最後までやろうと決めた。
試験日は明日だ。
不安がないようにしたい。
そうして行った最終確認の結果は、合格。
ふたりは胸を撫で下ろして、指導の選別師によく礼を言った。
選別師は困ったように笑いながら言った。
「教えることもありませんでしたが…明日、頑張ってください」
そうしてふたりは見送られ、南門から遠回りしてユヅリ邸へと向かう。
背の高い、黄色い並木道を歩きながら話すのは、結婚の準備を始めたカリとイズラのことだった。
「…それで、お手伝いできるのは、だいぶあとのことになるようですのよ。それまで、ご自分たちでしてしまわれるということですの。つまらないですわ」
不満そうに言うサリを、かわいいなと思いながら笑って見て、カィンは言った。
「結婚したら、いろんなことをふたりでしなくちゃいけないから、いい練習なんじゃない?それに、ふたりとも忙しいから、そんな用事でもなければ、時間を作れないはずだよ。ふたりにとって、いい時間になってるといいね」
言われて、サリは自分が楽しむことばかり考えていたことを恥ずかしく思った。
「そうですわね…邪魔してはいけませんわね…」
しょんぼりした様子もまたかわいらしく思いながら、カィンはところで、と言った。
「明日、試験が終わったら、恋草の道に行かない?ずっと興味なかったんだけど、サリがいるから行きたくなった」
恋草の道とは、主に恋仲の者たちが行く、ベーグ地区…チュウリ通り東の地区にある小道のことで、風情ある景観だと評判だ。
多く、その名称を借りて、恋仲の者たちが行く、不特定な道筋を指す場合もあるのだが、カィンが言うのは名称通りの場所だった。
「こっ、ここここここ…」
サリは動揺して立ち止まり、真っ赤になってカィンを見た。
いつか行くことを夢見ていた場所を、公認の仲となったひとと、歩く…。
サリはその現実感に、夢が吹き飛ぶ気がした。
夢で固まった地面が崩れていく。
恐れではなかったが、息が出来なくなるような気がした。
期待と、それに伴う不安。
楽しみで、けれど何かがカィンを落胆させはしないかと、うろたえていた。
カィンは、首を傾げて、言った。
「何か、問題がある?」
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