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「いっ、いええええっ、ななな何もないです、嬉しいですっ」
カィンは首を傾げたままサリを見ていたが、やがて促して、歩き出した。
「どんなとこだか知ってる?」
サリは以前見た、恋草の道を提案する、観光情報誌のことを思い出しながら言った。
「ええええと、水路に沿って歩くのだそうですわっ。水路の内側はほぼ公園になっていて、そちらは家族連れが多く遊びに来ているらしいのです。公園以外の場所は、住宅が多いそうですけれど、食事するところもいくらかあると書いてましたわ」
「書いてあったって、何に?」
「観光情報誌…ですわ。ファラがいつかスーと行きたいからと買ってきましたの。そのとき見たんですわ」
「えっ、あのふたり、まだ行ってないの」
「いえ、近くですもの、発祥の場所へは行ったのですわ。ほかの場所で探してましたの。その…こここ恋草の道となる場所を」
真っ赤になるサリの横顔を見て、カィンはなんだか幸せな気分になった。
サリは、ちらりとカィンを見上げて、その穏やかな笑顔にどきりとする。
慌てて前に目を向けて、高鳴る胸の鼓動を聞く。
「違う景色も楽しいけど、俺には君といる場所が恋草の薫る道だよ」
サリは立ち止まってカィンを見上げた。
ふと、そういえば、いつから見上げているだろう、と思った。
出会った頃は、そんなに変わらなかった気がするのに。
カィンも立ち止まって、サリを見た。
赤くなった顔がかわいらしくて、頬が緩む。
「だからどこでもいいけど…この道もそう言えるけど、できるだけ長いといいな」
カィンの言葉に、サリはますます顔を赤くして、言った。
「わわわわたくしも長い方がいいですっ」
カィンはにっこり笑うと、サリを促して歩き出した。
本当は抱きしめたかったけれど、人目があるので我慢する。
「ところで、遠征の予定とかあったりする?」
「えっ?ありません。どうしてですか?」
「俺が行くからね、サリにもそんなことがあるんじゃないかって考えてしまうんだ。いない間にそんな大事なことが決まったら、いやだなと思ってね」
サリは慎重に答えた。
「問題は各地で起こっています。けれどそれは、騎士の方々に対処していただいていて、わたくしたちが出る必要はないのですわ」
「そっか」
カィンが安心したような顔をするのを見て、サリは自分が思われていることを感じた。
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