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頬を染めて、前を見ると、考えながら言う。
「でも、わたくし、その時が来たら、行きます」
その決然とした横顔を見て、カィンは、余計な心配をした、と思った。
サリには、彼女が望む役職が与えられていたのだった。
それを、こなす義務と能力が、彼女にはあるのだ。
「そうだね。それが君の役目だった。ごめん」
謝られて、サリは慌てて言った。
「あのっ、嬉しいですわ!心配してくださること…ただ、わたくし、やりたいんですの」
「うん。そうだね。解ってるよ。無理な願いを持ってしまった。君に不安があるわけじゃないんだ。ただ…」
カィンは言葉を切って、続けた。
「黒檀塔の保護の術のことも、できる限り側にいられたことで、話を聞いて、見ていられたことで、満足できたんだ。身勝手だけど…力になれた気がしたんだ」
心強かったですわ、と言おうとして、サリは口をつぐんだ。
カィンの横顔はどこか、そんな言葉を望んでいない気がした。
「安心したと言うより、落ち着いた、って言うのが合ってる」
サリは考えてみた。
一週間もしたらカィンは遠征に行く。
特に不安は感じない。
どちらかというとミナが心配だった。
前回の遠征では倒れて、長いこと動けなかったのだ。
だが、ミナが危険なら、同行するカィンも危険なのに違いなかった。
それでも、サリは不安を感じなかった。
カィンはミナを守ってくれるひとで、それは確実に果たされることに思えた。
そうである以上、本人も確実に無事なはず。
証明できる何かがあるわけではなかったが、サリにはそうとしか考えられなかった。
「わたくし…同じようには想像できませんけれど…」
サリはそう言って下を向いた。
何か、カィンが落ち着くことのできることはないだろうかと考える。
ふと、自分の右手首が目に入った。
そこには、誕生日にカィンからもらった腕飾りがはめられている。
サリは顔を上げてカィンを見た。
「あのっ、以前わたくしがミナに選んでもらったサイセキは今、どちらに?」
「ん?彩石箱に入れてるよ」
サリは勢い込んで言った。
「それを加工しましょう!腕飾りにすれば、その…」
サリはそこまで言って、赤くなり、下を向いた。
自分と一緒にいてもらえる…そのように感じてもらえるのではないか、と思ったが、それは自分の存在を過剰に大きく示しているように、押し付けているように思われた。
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