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一国をまるごと覆うほどの結界を、たった1人で維持する能力を持つ祭王。
それに並び立つ政王はもちろん、その代わりを務める彩石騎士と、祭王の代わりを務めることのできる四の宮公も、これに相当する能力保持者に違いない、というわけだ。
もっとも、祭王以外の者たちがその力を発揮する機会は今までなかった。
それだけ祭王の絶縁結界は強固で、アルシュファイド王国は閉じられた国だった。
だが、ここ数ヵ月で状況は変わった。
まず、大陸東の国のひとつ、メノウ王国への、荒れた国土の復興支援。
次に、大陸西にある、ただひとつの火山を囲む、カザフィス王国、サールーン王国、セルズ王国での火山結界修復。
そして、大陸東の国のひとつ、ザクォーネ王国を覆う絶縁結界構築。
これらの国との付き合いを、今後も深めていくことを、政王は…アークは決断した。
関わった国々を、末長く支えていくためだ。
それには、様々な取り組みが必要となる。
例えば、ザクォーネ王国と円滑な交流を行うため、そこへ至る整備された、安全な道を通す。
これに必要なのが、道を造るのに充分な国力を有するであろうイファハ王国と繋がりを持つこと。
まずはそこから始めるのだ。
シィンは会議室に用意した資料にちらりと意識を向けた。
イファハ王国との取引については、すでにまとめてある。
今、この執務机の上にあるのは、主に国内の問題についての書類だ。
それを分類していると、部屋の扉が突然開いた。
こんな時間に来る人物は決まっている。
顔を上げると、思った通り、入ってきたのは、宰相ユラ-カグナ・ローウェンで、彼は手に文箱を持っていた。
シィンはなんとなくいやな予感がして、顔を背けたかったが堪えた。
そんなシィンに、ユラ-カグナは声をかける。
「おはよう。いつもながら早いな」
何気ない風を装おうとしているが、どこか緊張感が漂う。
シィンは溜め息ひとつ、聞いてやる。
「今度は誰から何を言ってきた」
ユラ-カグナは言い淀む。
いつもはっきりものを言う彼には珍しい。
「それが…お前に客だ」
シィンは目を細めた。
宰相ユラ-カグナを通して白剱騎士シィンを指名するとはどういう思惑なのか。
「誰だ」
「ボルファルカルトル国第二王子ジョージイ・ナパム」
シィンには名指しされる心当たりがない。
「どういうことだ」
ユラ-カグナはそっと横を向いた。
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