白剱騎士の仕事

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「クラールでお前の話が出たんだ。まさか今頃持ち出すとは思いも…」 クラールとは、大陸最小の国、クラール共和国のことだ。 学究都市であり、各国から学究の徒として多くの人々を受け入れていて、シィンもユラ-カグナもそちらで学んだことがある。 そこでどんな噂話をすればこのような突然の訪問になるのかと、シィンはユラ-カグナを睨んだ。 何よりもまず確かめなければならないことがある。 「訪問の理由は」 まさか本当に白剱騎士に会いにではあるまい、と思ったが、ユラ-カグナは言った。 「表向きはお前に会いにだ」 シィンは眉をひそめた。 ボルファルカルトル国の王家は、主権を民衆に渡した今、形だけの存在だ。 その働きは外交、特に親善に限られていて、国政から身を引いた王家の者を訪問する場合が多い。 シィンはアルシュファイド王家、レグナに深い関わりのある身だが、それは公にされていない事柄だ。 白剱騎士としてのシィンに会いに来るのなら、国政に近すぎる。 また、これまで交流のなかった国だ。 突然の訪問には、ただ人に会う以上の理由がなければ、承認を得るのは難しいはず。 「…何のために」 「剣を教わりたいそうだ」 シィンは目を(すが)めた。 「よくそれが通ったな?」 「押し通す理由がある。火山結界だ」 大陸ただひとつの火山から人々を守る火山結界は、大陸西にある国としては気に掛けずにいられない存在だ。 ボルファルカルトル国は現在、国境を火山結界と接していないのだが、かつて征服した土地、旧サキト領に対して、深い思い入れがあるようなのだ。 「これは一部の議員からの後押しによるものだそうだ。王家として、何かしたいと言ってきた」 「それはセルズに言うことだろう」 旧サキト領は今、セルズ王国、細かくいえば東セルズの領土だ。 「目的が彩石判定師の見定めだからだ」 「…信用しているのか」 彩石判定師…ミナのことは、シィンも気にかけている。 できることなら妙な輩を近付けたくはない。 ユラ-カグナは息を吐いて言った。 「その方面にはだらしのないやつだが信用はできる」 その方面…それを聞いてシィンは思い出す。 彼の、外聞よろしくない女性関係。 「まあ、彼女はおそらく採石に行けるだろうから、直接会わせなくて済むだろう」 ミナは今日から5日間、採石のために王城を空ける予定なのだ。 「それで納得するのか?」
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