白剱騎士の仕事

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「するよりないだろう。滞在期間は3日だ」 「いつからだ」 ユラ-カグナは深い溜め息をついた。 「どうやらイファハの王弟と同じ船らしい。9時到着だそうだ」 シィンはやや目を細めてユラ-カグナを見た。 「ふたり同時に出迎えろというのか」 「それだが、イファハの方はファイナに行かせたらどうかと思う。あちらは特に白剱騎士を指名したわけではないからな」 シィンは溜め息をついた。 異国の王子に付き合うとなれば、書類仕事は滞ることだろう。 「見た目は」 「深い緑の髪と目だ。だが土の強い者だ」 大陸の人々は、その身に持つ異能に対応した色を、髪や瞳に持つ。 多いのは、土は黒、風は緑、水は青、火は赤という組み合わせだ。 通常であれば、緑の髪と目を持つなら、風の力を持つはずだった。 それを考えて、シィンは意外さに、ほんの少し眉を上げた。 「珍しいな。分かった、行ってくる。後を頼む」 「ああ。ジエナほど面倒なことは言わないはずだが、用心してくれ…逃走しないように」 カザフィス王国の第一王子、ジエナ・ルスカ・フォレステイト・ナサニエリ・カザフは、ふたりにとって面倒で憎めない友人だ。 その特技は、姿をくらますこと。 「…ジエナより多いのか」 「問題は逃げ出した先で起こすことのほうだ。デュッカに余計な刺激を与えかねん。…正直、まだミナにはいてもらわなければ困るんだ」 ふたりを知る誰もが危ぶんでいた。 デュッカがミナを手に入れた瞬間、彼女を連れ去るのではないかと。 そのきっかけを作られては困る。 恋愛事情になど、他者が口出しすべきではないのだが、現状、ミナに頼ることが多すぎた。 身勝手と言われようと、今、いなくなられては困るのだ。 「逃走は、多いし、素早いな。まず採石場には行こうとするだろう。ミナのこととは別に、興味を持っているようだ」 採石場とは、彩石の溢れる泉のことだ。 彩石は、ひとの異能の発動を助ける3種の働きを持つ。 ひとつは、サイジャクという異能を減少させるもの、もうひとつは、サイゴクという異能を増大させるもの、そしてもうひとつは、サイセキという、力そのものを内包しているものだ。 それら、他国では見ることすら少ない、稀少な彩石が、アルシュファイド王国には、溢れるほど湧き出る。 それが彩石の泉だ。 「では彼女の移動に合わせて、接触させずに案内する予定を組もう」 「ああ。それで済めばいいな…」 ユラ-カグナはどこか遠いところを見る目をする。 それを見て、どうやら自分は、厄介な人物を押し付けられたらしいと、シィンは溜め息をついた。
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