79人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら森園子爵の言い分は建前のようで、いつしか殺人そのものに快楽を得るようになっていたようだ。美しい顔を歪めながら娘たちが死に逝く様子は、いつの間にか森園子爵にとってはこの上ない喜びになっていたらしい。
血に飢えた殺人鬼が夜毎に美女を求めて街中を徘徊していた。そして、美人百選なる催しがあると、選出された美人たちに声をかけていった。もちろん、声をかけるのは殺された侍従である梅津の役目で、裏で待ち構える森園子爵の名前は伏せたままだった。
「それならますますペローの「青髭」ようですね。青髭もいわば愛称のようなもので、彼の名前はどこにも出てきませんでした」
「き、貴様、ペローの「青髭」を知っているのか? 探偵風情が生意気な」
「おや、森園子爵もご存じで? それは奇遇ですね。よろしかったら、僕が巴里で手に入れた貴重な蔵書、ギュスターヴ・ドレの挿絵が入った寓話集「マ・メール・ロワ」をお見せしましょうか? ドレは僕の大好きなポーの「大鴉」の挿絵も書いていて……」
この青山麗治郎という男。頭の回転が速く知識が豊富なのは認めるが、周囲に構わず我が道を進んでしまうところがある。今も場の空気を読もうとしないから、話が本筋から逸れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!