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「ひ、ひどい……ひど過ぎる!」
恩人として、憧れの人として森園子爵を慕っていた一輝は、彼女を全否定するこの言葉にすっかり打ちのめされてしまった。
「お言葉ですが、人それぞれの好みによって美醜の基準は違うものです。それで人の価値を判断するとは、あなたは何とも狭心な方ですね」
麗治郎が天を仰いで嘆いてみせた。
「き、貴様のような男に何がわかる! 人は見た目で判断される。それを私が知らないとでも思っているのか?」
「だから、あなたが言いたい意味がわからないのです。それに、僕はあなたの容姿を云々言うつもりは全くありませんから」
「黙れ、黙れ! 見てくれだけの男が、いちいち偉そうに意見を述べるな。私のような賢い男に盾突くには十年早いぞ。絶世の美女と若いだけの薄汚い娘とを比べる方が、それこそ罪というものだろう」
森園子爵が発した最期の言葉に環が即座に反応した。
「一輝が若いだけの薄汚い娘だって? 馬鹿にしやがって。一輝、あれがあいつの本性なんだ。やっぱり、あいつは親切心で私たちを引き取ったわけじゃないんだよ。最初から利用するつもりだったんだ」
「父親が亡くなり、母親が姿をくらました。そんな不安定な状況にいる一輝さんに付け込んで、この男は恩を売っただけです。だから、不運にも一輝さんは簡単に騙されてしまったのでしょう」
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