79人が本棚に入れています
本棚に追加
~森園公業、最後の悪あがき~
「これだから奇術師なんて卑しい身分の奴らは信用できないのだよ」
森園公業子爵は外務省の職員で、父親は長年に渡り貴族院の議員をしていた。そして、ゆくゆくは自分も子爵議員に選出されるはずだと凄んだ。
「あら、でも私はその卑しい身分の奇術師ですわよ。それをお忘れになったのかしら?」
「いいえ、華子さんは別格ですよ。私の妻になれば子爵夫人という名誉ある身分が与えられるのですから」
「だからどうだとおっしゃりたいのですか? 人を殺めることは決して許されない罪なのですよ。あなたは身分とは関係なく、裁かれる罪人なのです。私は罪人の妻になる気など毛頭ございません」
華子が強気で突き離すと、公業は不敵な笑みを漏らした。
「その罪も私のような高貴な人間には、握りつぶせるだけの伝手があるのですよ。愛しの華子さん」
「それはどうでしょうか? 我が国の警察はそこまで愚かではないはずですよ、森園子爵。ほら!」
徐々に近づく大きな物音と共に、うら若き乙女の血で染まった隠し部屋に警察官がなだれ込んできた。
「どうやらこれで一巻の終わりのようですね」
「ふん。たかが警官ごときに何ができるというんだ。警察上層部には父の代からの知り合いだって大勢いるのだぞ」
最初のコメントを投稿しよう!