事件解決編

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 平民に捕まえることなどできやしない。そう高をくくっている森園公業の前に、一人の男が颯爽と現れる。  聡一と同じくらいの年代だろうか。細身の中年紳士は気品ある顔立ちに、松葉型のつる付き眼鏡がよく似あっていた。その顔立ちに華子は心なしか見覚えがあるような気がした。 「まさか、竹馬の友が人殺しを繰り返す狂人だったとは。世も末だな、森園君」 「は、早坂君。どうして君がここへ?」  その人こそ、森園子爵の第一高等中学校時代の同級生で、麗治郎の異母兄・早坂信煕だった。 「これは、これは内務省警保局保安課・課長(*一九四七年(昭和二十二年)まで存在した内務省の内部部局で、警察部門を所管した。現在の警察庁に相当する)が自らお出ましでとは、珍しいことが起きましたね。しかしながら、これは殺人事件です。あなたの部署の管轄ではないはずですよ」 「麗治郎、お前は黙っていなさい。私は自分の職務を全うするために来たのだから」 「その職務とやらは、この殺人鬼を逮捕するということですか?」 「もちろん、その通り」  丸椅子に腰かける森園子爵の前で、信煕は仁王立ちになった。 「我が愚弟が生意気なことを言っていたが、案外的を射ているようでね」 「ぐ、愚弟? で、でも、奴は青山なにがしと名乗ったぞ」 「あぁ、それですか。異母兄と苗字が違うのは、僕が妾腹の子だからですよ」 「し、妾腹の子だと?」
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