79人が本棚に入れています
本棚に追加
「そもそも、こんな些細な事件に自ら名乗りを上げなければならなかったのは、誰のせいでもなくお前のせいなのだよ。まぁ、今回の事件でお前も理解できただろうが、権力もこうやって使えば役に立つものだ。よく覚えておけ、麗治郎」
「ほ、ほほぉ……」
もっともらしい異母兄の言い分に、麗治郎は返す言葉がなかった。
「そちらの血まみれのお嬢さんは、見た目よりもずっと元気そうですな。これから担当の警察官が事情聴取をおこなうが、その前に病院に行った方が良いのでしょうか?」
「い、いえ。これは血糊ですから、大丈夫です。私は怪我など一切ございません」
「そうですか。それならば、私の役目は済んだので、これで失礼させてもらうよ」
的確な時間に現れ、的確な態度で森園子爵を連行した早坂信煕。彼は脇目も振らずに、この場を去って行った。
「あの方が例の異母兄殿ですか?」
「左様です」
「お父上同様に、切れ者のようですわね」
「あの人がいれば早坂家は安泰。僕が以前に言った意味がわかったでしょう?」
「はい、なんとなく。全く無駄のないお人のようにお見受けしました」
「あれでも以前よりは人間味が増したのですが、他人から見ればからくり人形のように映るかもしれませんね」
四人の娘の父親となり前よりも柔軟になったというが、異母弟の麗治郎とは真逆な雰囲気に華子はただただ圧倒されるばかりであった。
最初のコメントを投稿しよう!