事件解決編

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 溝口を見舞ってから、華子は放心状態で廊下の椅子に座っていた。その様子をこっそりうかがっていた志乃が声を掛けた。 「華ちゃん、大丈夫? 真っ青な顔をして。華ちゃんもお医者様に診て貰った方が良いんじゃないの?」 「だ、大丈夫よ、志乃さん。わ、私は大丈夫。だ、大丈夫だけれど、大丈夫だけれど……」  大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせても、溢れる涙は止まらなかった。どうしたものか、さっきから胸が痛くて仕方がない。  いつも口喧嘩してばかりの相手のはずが、気付けば溝口を意識していた。それは、きっと華子が溝口に惹かれていたせいではなかろうか。 「し、志乃さん……みぞ、溝口さんが、溝口さんが……ど、どうして、こんなに胸が痛いの? どうして、こんなに苦しいの? どうして、こんなに涙が出てくるの? どうして……」 「華ちゃん……」  溝口の新しい勤め先や恋人の話を、志乃は前もって聡一から聞かされていた。だから、その時からこの日が来ることに気付いていたのだ。    あの幼かった華子が初めての恋を失い涙に暮れている。 ――ちのたん、ちのたん、まって……はぁちゃんを、おいていかないで!  舌足らずの甘えた声で、いつも後ろから追いかけてきた童女。その子がいつの間にか大人の女に成長していたようだ。嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちで志乃は華子を見つめていた。
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