終章

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 そして、事件解決から二ヶ月後、聡一一座の盛田座での千秋楽日。  ようやく騒動が落ち着き始め、とうとう天覧興行の日を迎えることができた。もちろん、華子が初めて水芸を披露する晴れの舞台でもあった。 「絶対に私はできる。大丈夫、大丈夫……」  溝口の残した言葉通り、深呼吸しながら自分自身に暗示をかける。 「嬢ちゃん、出番だよ!」  そして、いよいよ華子の出番が来た。 「は、はい!」  晴れ舞台に相応しい、新しいドレスに身を包んだ華子が姿を現す。ちなみにこのドレスは口の軽い銀座の仕立屋ではなく、多江が森園子爵のウエディングドレスを真似て仕上げたものだった。  彼女が登場するだけで、舞台は一挙に華やかになった。 「……あら、雨かしら?」  いつものうっかり癖はすっかり影を潜め、舞台は無事に成功したのであった。  凄惨な事件の後、奇術の演目をどうするか、一座では話し合いを設けた。その結果、『耶蘇服を着た少女の磔の術』は『みなしご少年の仇討ち物』に内容を一変し、環の独壇場となった。  大袈裟な演技や殺陣が大いに受けて、今では贔屓のご婦人たちの涙を誘っている。時に少年、時には少女を演じる環の舞台は、銀座界隈でもえらく評判になっていた。今では若手の歌舞伎役者も羨む、芸達者ぶりを披露している。
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