終章

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 一座の大看板を引き継ぐ候補として、一輝の名前が挙がっていることは、華子も重々承知の上だった。もちろん、一番弟子の聡次の右腕として、聡次の良き妻として、一輝は一座を支える柱となっていくであろう。  森園子爵の企みが全て明るみになった今、一輝は世にも珍しい女奇術師として舞台に立っている。  一輝という名前は以前の師匠だった旭小斎輝一から拝借し、梅津が名付けたという。母親の旧姓安斎を名乗っていたが本名は宮崎勝(かつ)といい、勝気な性格をもじって《かずき》にしたそうだ。  伸ばし始めた髪を香油で撫で付け、より舞台映えするように化粧をし、燕尾服のように仕立てたテーラード・ジャケットに長めのスカートで登場する姿は、もう決して男には見えなかった。  口上の苦手な聡次と勝の課題は残されているものの、得意の『縄抜けの術』や『サムタイ』に磨きをかけて、観客たちの熱烈な拍手を浴びている。 「華ちゃんや環の華やかな舞台には負けるけれど、奇術の腕なら負けないから」 「聡次さんとの仲だって、負けないくらい熱々だって言いたいんでしょう? もう、見ているこちらの方が恥ずかしいくらいですもの。それに比べて私は……うっかり者で、減らず口で威張りん坊ですものね。殿方から相手にされないのは仕方がないですわよねぇ」 「じょ、嬢ちゃんそれは……つ、つい、うっかり口から……」 「あら、まぁ。聡次さんでもうっかりすることがあるのね」 「こいつは一本取られたなぁ」  華子は幸せそうに顔を赤らめる勝と聡次がちょっぴり羨ましかった。
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