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「 啓介、ごはんよ。」
「 あっ。はーい。すぐ降りるよ。」
携帯を見ながら、いつの間にか
ウトウトしていた様だった。
「 いただきまぁーす。」
「 あなた、吉田さんちのお爺ちゃん
末期の癌だそうよ。」
「 えぇっ。本当に?」
「 今朝、娘さんと話したんだけど、
そう長くはないみたい。」
「 吉田のお爺ちゃんって、
サクラのお爺ちゃんの事?」
「 そうそう。お姉ちゃんも、啓介も、
入学してすぐ、写真貰ったわね。」
「 でね、人生の最後を過ごす場所で、
お爺ちゃん波の音を聞ける場所を望んでてね。
海の近くで育ったらしくて、
波の音聞くと安心するんだって。」
思い出した。
社会人になっても、
ずっと宝物にしていた物があった。
それは、一枚の写真。
高校入学の時に、
一枚だけ恭子ちゃんと一緒に写った写真がある。
それは、吉田のお爺ちゃんが、
学校の入口にある1本の桜の木の前で撮影してくれた一枚だ。
毎年、お爺ちゃんの趣味で、
新入生をサクラの木の前で撮影してプレゼントしてくれる。
生徒を呼びとめる声は必ず、
「 サクラが呼んどるぞ! 」この言葉だった。
この写真の日の朝は、たまたま日直で早めに自宅を出た。
ちょうど、恭子ちゃんと正門前であったので、
二人一緒に撮影してくれたものだった。
たしか、サクラお爺ちゃんは今年の桜が咲く前に、
施設に引っ越して、半月程で亡くなったはずだった。
食事を終え、再び携帯を手にし
うさちょろさんの小説を覗いた時、
「 えっ・・・ 」
さくら爺さんの事が書かれていた。
/// ///
私と啓ちゃん・・・
2人だけで写った、たった1枚の写真。
それは、サクラお爺ちゃんが撮影してくれたもの・・・。
「 ! 」
「 これって・・・。」
お爺ちゃんが引越しする前に、
最後のサクラ・・・見せてあげたかった。
あの朝、サクラお爺さんは、
車の窓から、まだ小さな蕾のサクラをじっと見つめて、
泣いていた・・・。
私が最後に見た、サクラお爺ちゃんの姿。
啓ちゃんとの大切な宝物を与えてくれたのに、
私はサクラお爺ちゃんに、
何もしてあげられなかった・・・
でも・・・
本当は・・・
きっと、何かが出来たはず・・・
写真を見ると思いだす。
啓ちゃんとの、
幸せな時間と、
1つの・・・後悔。
「 これって・・・ 」
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