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お爺さんそろそろ行きましょうか。
「 チーン 」
お婆さんの仏壇に最後のお別れをしていた。
「 お婆さんやい。一緒に行こうのう。」
「 はいはい。
写真は私が持ちますからね。」
お気に入りの一枚の写真。
それは、
お婆さんが元気だった頃、
お爺さんと二人で撮影した最後の写真。
正門前の桜の木の下で、
笑顔で腕を組む老夫婦の写真だった。
足元には、散っても綺麗さを保つ、
無数のサクラの花びらが、
ピンクの絨毯の様に、鮮やかに二人を包み込んでいた。
「 心残りは・・・
今年の桜が見れん事だけじゃよ。 」
「 わしが死んだらのう、
すまんがこれまでの桜のアルバム。
校長先生に渡して貰えんか。」
「 何を言っているんですか。お爺さん・・・。」
娘の良子は、お爺さんの余命を知っている為、
涙を堪える事に必死だった。
「 波の音を聞いて、元気になって戻りましょうね。」
「 良子。もう、ええんじゃよ。
これまで、辛抱かけたなぁ。
わしは、ばあさんの分まで十分に長生きさせてもろたわい。
美味しいご飯もお腹一杯食べさせてもろうての、
一杯じゃないのう、
お腹二杯も三杯もじゃ。」
「 本当に、ありがとう。」
ここのところ、固形物が喉を通らず、
流動食ばかりとなっており、
更に抗がん剤の薬の影響で、
嘔吐を繰り返し、
筋肉も衰え別人の様に、
か細くなっていた体のお爺さんが、
伝えようとしている思いに、
娘の良子はいたたまれなくなり、
ついに我慢していた涙を流してしまった。
「 おやおや。」
「 今日は雨じゃと言っていたのに、
外では降らんと、家の中で降っとるわい。
こりゃ、こまったのう。
傘は、させんしのう。困った。困った。」
「 もう、お爺さんったら。」
「 おーい。車の準備できたぞ。」
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