満開

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良子の夫の辰夫が声を掛けた。 車いすに乗り、 お爺さんが玄関を出る際、 辰夫に声を掛けた。 「 辰夫さん。わしの最後のお願いじゃ。」 「 余命は自分で分かる。 だから、だからすまないが、 今年の桜、満開になったら、 写真でええ。 携帯とやらの写真でもええ。 墓前に向けて、見せてやって貰えんかのう。」 お爺さんは、両手を何度も何度もこすりながら、 祈り、拝むように、懇願していた。 「 辰夫は、目頭を熱くしながら、 唇を噛みしめ一言告げた。」 「 お爺さん、 嫌ですよ・・・。/// 俺には出来ません。」 娘婿であり、 年老いた体では負担にかける事ばかりだった。 自分の存在を恥・・・ お爺さんは、落胆しつつも、 悟られないように、 何も語らず、小さく頭をさげていた。 きっと、施設に送り届けてもらえるだけでも、 死に際に、幼き頃育った環境の 波の音を聞く事が出来るだけでも、 贅沢な事を、 一番よく理解していたからだと・・・。
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