満開

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辰夫に押されるがまま表に出ると、 用意されているはずの車がなかった。 「 おや。」 不思議に思っていたが、 二人が車いすを押す方角は、 お爺さんにはピンときた。 最後に・・・ 桜の木を見せてくれるんじゃのう。 今はまだ、蕾すらないかもしれん。 それでも、こんなにも幸せに思う事はなく、 娘夫婦の気遣いに感謝するばかりだった。 次ぎの角、佐伯さんの家じゃ。 あの角を曲がると直ぐ正門で、 大きな桜の木が迎えてくれる。 「 良かったのかもしれん。 消えゆく年寄りには、綺麗な花よりも 何も無い歪な枝を見る方が・・・。」 心の中でそう思った瞬間、 目の前には想像もしなかった光景が広がっていた! 「 ああ!こ、こ、これは・・・ 」 お爺さんは驚きのあまり、 空いた口がふさがらない様子だ。 細枝の先々まで、 これまでに見たことのない程、 見事なサクラが満開に咲き乱れていた! 「 そ、そんな、何故、こんな、こんな事がある訳ない・・・。」 「 ザザザザーッ!」 その時、校舎の4階から大きな垂れ幕が下ろされた。
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