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鈴木係長の携帯が鳴った。
「ああ、すいません。」
そういうと鈴木は、部屋を出た。岬は本上と部屋に残された。
何を話せば良いのか岬には判らない。俯いてしまった。
「佐田君は、車が好きですか?」
本上が、話題を振ってくれた。
「はい、車の可能性が好きです。」
「可能性ですか?」
「はい、僕は身内を交通事故で奪われました。」
「事故で、…」
「ええ、その時はショックで暫くは呆然としました。だけど…」
「だけど、何」
「死んだ人は返らない。だから、同じ悲しみを持つ人を減らしたかった。だから、車のエンジニアになった。でも…」
「営業に配属になった…」
岬の言葉を奪い続けた。
「僕に営業は…」
岬は言葉を飲み込む。
「だけど、良い車を作っても、載って貰わないと良さは解らないのでは、自分の作る車に乗る人を集める。契約を取るより、楽しいじゃないですか。無理して契約を取るより、あなたの得意とする方法で営業してはどうです。」
本上は優しく話し掛ける。
岬は少し考える。自分は、契約を取る事に必至だった。営業先で何を話せば良いのか解らなかった。
安さや人気車を売り込んでいた。
「本上様、有難う御座います。少し演れるかも知れません。」
「んっ、そうですか。」
本上は優しく微笑む。
「佐田君は、どんな車を作ってたんですか?」
「僕は主に危険回避を考えてました。車の速さに限界は無いに等しい。だから、速さに応じてのストップ機能を考えてました。」
「それだと、私の様に飛ばし屋は、難しいのかな?」
「いえ、スピードが出ていると、衝撃が大きくなります。ですから障害に対して早い段階で予測し対応します。ですから…」
本上が真剣に聞いてくれたので、岬はいつも以上に饒舌だった。
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