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俺が住んでいるここは、10年に一度、魂を神にささげる。 こんな言い方をすると、少しは神聖に聞こえるが、単純な話、生贄を捧げるということだ。10年に一度、18歳の男女問わず一人が、海に身投げする。馬鹿馬鹿しい話で、今日日生贄なんてナンセンスだとも思うが、昔、生贄を捧げなかった年、大規模な津波が起きて夥しい数の人間が犠牲になったらしい。そんなもの、つまるところ偶然の気もするが、生贄がないときに津波が起きたのは事実だから、生贄信仰はめっぽう強くなってしまった。 明日は俺の誕生日。18歳。 そう、俺は生贄に選ばれた。 どういった選考方法かはしらない。推薦か利害かはたまたくじ引きか。方法は知らないが、何百という人の中から俺が選ばれた。 こんな時、普通の人間ならば運命に絶望する、というのが一般的だと思う。俺も普通の人間のつもりだし、今までの人生に不満を覚えたことは無かったし、これからも生きていく気満々だったから、実際に生贄になったその瞬間は、頭が真っ白になると思っていた。 でも、正直なところあまり覚えていないが、俺はその運命を、比較的すんなり受け入れてしまったようだった。明日死ぬというのに、今も大して怖がっていないから。 「また遊びたいね!昔みたいに」 俺が生贄になったことは、ここに住んでいる者は全員知っている。だとすれば、俺の隣にいるこの幼馴染が、まったく明日のことについて心を揺らがせていないのが、いささか不思議に思えるかもしれない。なんて淡泊なのだろうと思うかもしれない。 エミが冷酷で非情だと勘違いされても困るので、一つ言っておくと、エミは俺が生贄になった事実を、知らないのではなく、覚えていないのだ。
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