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いつも浴びている潮風が、やけに冷たく感じた。 いつも見ている大海が、やけに暗く見えた。 俺はいつもみたいに、海が見える崖に来ていた。ただ、一ついつもと違うのは、俺の両手と両足は縛られ、誰かがぽんと背中を押したなら、俺の五体は海中へと消える状況になっているということだ。 結局、何も起きなかった。 予定通りに、俺は生贄として、今日を迎えた。 生贄を捧げる今日は、何も盛大なパレードじゃない。俺は人知れず、たった数人の監視の中、海へと還る。怖さがないわけじゃない。不安がないわけじゃない。でも、俺がここで生き残れば、昔あったみたいに、もっと多くの人が死ぬかもしれない。その中には、エミもいるかもしれない。ならば、俺は迷わずに、この命を捧げよう。 ・・・心残りがあるとすれば。 エミ、お前に俺の想いを伝えられなかったことか。 まったく、死ぬって分かっていても告白できないなんて、本当に、つまらない奴だよ、俺は。 好きだった、本当に好きだった。 たまらなく、どうしようもなく。 「・・・おっと」 いけないな。恰好がつかない。死ぬ間際で見せる涙なんて。 このままじゃ、踏ん切りがつかなくなりそうだ。そう思った俺は、気がぶれない内に、ゆっくりと重心を前へと傾けた。 「待って!」
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