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「どうして!?どうしてよ・・・っ」
考えれば、あんなに泣くエミを見たのは、生まれて初めてだったかもしれない。
「どうしてあなたが生贄なんかに・・・っ。
どうして私の代わりに、生贄なんて志願したのっ!!」
考えれば、エミに、記憶障害なんて無かった。
「愚問だな。お前が死ぬことなんて、あっちゃあならない」
エミは俺と同じ誕生日だった。そんなことも忘れていた。最初に生贄に選ばれたのは、エミだった。
「バカっ・・・。あなたが死んだら、私は・・・」
記憶障害を持っていたのは、俺の方だった。
「・・・分かれよ。好きな女を死なせたくないっていう、男の気持ちくらい」
「・・・!!」
「エミ、愛してる」
俺はしっかり、告白もできていたんだった。
「う、うぅ・・・」
エミは膝をつき、泣き崩れた。反論しなかったところを見ると、分かってくれたのかな。
「エミ、こんな折だが、頼みたいことがある。俺の━」
言い終わる、前だった。
エミは俺よりも背が低い。届くように、若干背伸びをしたのだろう。
心地いい、沈黙が続いた。
「・・・これ?」
エミは涙をぬぐって、顔を赤らめ恥ずかしそうに訊いた。まだ感触が唇に残っていた。
「あ・・・っと・・・」
俺が頼みたいことは、これ、じゃなかった。予想もしなかったことが起き、俺は分かりやすくどぎまぎしていた。
「・・・違った?言って。いいよ、今なら。何でも、聞いたげる」
どくんっ・・・。
俺の胸は、今まで最高に高鳴っていた。エミの顔がたまらなくいじらしく、官能的だった。
抱かせろ。
ここは男らしく、こんな一言でも吐くのがセオリーなのかもしれない。
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