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「久しぶりだな。おまえに那古野城を譲ってからというもの、ここにはほとんど来たことがないというおまえが、そんな真面目くさった顔でやってきて、ふたりきりで話がしたいなどと……いったいなにがあったのだ? 久々に一緒に晩飯を食うておるのだ。楽しい話でも聞かせてみろ」
「……天下を取るには、どうしたらいい」
信秀は食べ物を吹き出しそうになる。
「おれは真面目に聞いてるんだ! 天下って、どうやって取ればいいんだ」
「なぜそんなことを聞く」
「理由なんてどうでもいいだろ。知りたいんだ」
父は言う。理由を聞かなければ教えることはできないと。
天下統一など、いち武将からすれば雲をつかめと言われているようなものだ。
多くの大名たちが天下を夢見る中、そのほとんどは夢や憧れで終わってしまうものだ。
戦で部下の命を無駄に散らして――。
「ゆえに、軽々しく天下を語るのは、おまえのためにはならない」
「天下人になってくれと言われた」
「だれにだ」
「それは……」
「……好きな娘でもいるのか?」
「ち、違う」
「いつも荒々しく駆け回ってうつけものと言われておるのに、いまのおまえの眼はとても優しく澄んでおる。そんなことができるのは、恋だけだからな」
「天下を取れば、みな平和に生きられる。戦もなくなる。だから天下人になりたいんだ」
「守ってやりたいやつができたのだな」
「そんなんじゃねえけど」
吉法師の決意を感じた父が、そんな中途半端な気持ちで天下は取れぬと一喝すると、
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