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翌朝、目を覚ました信長がふとんを見るが、濃姫の姿はなかった。
その目に、快晴を知らせる光が刺さる。
いつもと違う光だった。その光に導かれ、障子を開けた。
目に入ったのは、庭で薙刀を振っている濃姫だった。想像もしてなかった光景に唖然とする。
「帰蝶? いったい、なにを」
「見てわからないか。稽古だ。薙刀は毎日稽古していたから自信がある」
濃姫は手を止めて言う。
「鶴姫のこと、信秀様と、政秀殿から聞いた」
互いにうつむいて、先に顔を上げたのは濃姫だった。
「おまえが天下を取ると本気で言うのなら、わたしはそれを手伝うことに決めた。おまえが命をかけて変えたいと願うこの世界がどう変わっていくのか、わたしはおまえの正室であることを誇りに思いながら、おまえの横で見ていたい。もう一度だけ夢を見ようと思う。だから、ここでおまえの妻として暮らす。帰蝶ではなく、濃姫として」
そう言って濃姫は信長のそばに来て手を差しだした。それを信長は強く引き寄せ、濃姫を抱きしめた。濃姫の言葉に、ただただ涙しながら。
こうして、生涯最大の盟友を得た信長は、天下への第一歩を踏みだしたのである。
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