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2幕『鶴のために』
吉法師は数日間、那古野城の自室にこもった。かと思うと城内を考えこんでいる様子でうろつき、書庫に入り、また自室に戻るなどを繰り返した。
いつもなら、朝から庭に出て木刀を振り回す。
昼になれば女中の尻を触るなどのいたずらをしたり、裏道から城下へ下りていくのが日課。
それが突然引きこもりだしたのだ。
城内は次第に何事かと騒ぎはじめる。おとなしいのはいいことだが、ただただ不気味である。
父にでもひどくしかられたのだろうと、ほくそ笑む女中ふたりが、たまたま歩いてきた吉法師とぶつかりそうになる。女中のひとりが驚き、かわそうとして倒れる。
「す、すまん」
と女中の手を取り立ち上がらせた。
「申し訳ありません!」
謝る女中の横を何事もなかったように歩いていく。
ふたりは鳥肌が立っていた。改心した演技でもして、あとでとんでもないいたずらをされるのではないだろうかと。
その夜、みなが寝静まったころ、吉法師は父である信秀の居城、古渡城にいた。
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