第1章

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 Aは急に顔色悪くして呟いた。 「よくいうぜ。今もかっこいいぜ? ほら、今でいうちょいワルオヤジみたいな」 「そこまで老けてねぇよ」まぁ、とAは話を続けた。「悪いってのは合ってるけどな。ろくな仕事してねーからよ」 「……あ、いや」  自分から、それを出すとは。と。  俺は酔いが覚めてしまう。急に水風呂に入れられたかのような感覚。 「卑下になるなよ。中学の友人にここまで付き合ってくれる奴がよ。いい男が台無しだぜ」 「……あんがとよ」Aにビールを注いでやり、互いにコップを鳴らして、飲み干す。「でもよ、AVの撮影会社って嫌になるぜ?」  あ、そういうとこなの。色々と予想していたが、でも、予想よりかは軽くて助かった。闇金やヤクザではなかった。 「いいじゃん、AV。今でもお世話になってるぜ」  下世話だが、ちょっと憧れもある。いや、自分が好きなもので働けるのっていいじゃないか。エロいことって、まぁ、男はみんな好きじゃないか。 「エロいこと自体は別にいいよ。そんなの人間の本能だからよ。でも、盗撮ものはさ」 「盗撮?」  パッと、これまで見てきた盗撮ものの映像がと浮かぶ。  落ち込み気味なAとは対照的に、俺はにやけた。 「いや、盗撮って言ってもよ。どうせ、やらせだろ?」 「中には本物もあるよ」  だから、嫌になる。と、Aは言った。 「……いや、その、んぅ……まぁ、な」  一瞬、それ最高じゃんと思った自分が恥ずかしい。  逆に、Aは罪悪感のようなものに苛まれているのか。 「気にするなよ、そんなよ。あ、そうだ。怪談話でもするか。うち、結構色々とあるぜ」 「怪談? 季節が早くねーか」 「いいんだよ。善は急げだ」 「怪談が、善かねぇ」とAはいうが、口元に笑みがもどり、嫌ではなさそうだ。「お前はショッピングセンターだっけ。働いてるの」  そそ、と俺は言う。 「そこでさ、清掃のおっちゃんが言うには。夜中に行くと、トイレに首吊りの幽霊が出るらしいんだ」 「あー……あーいうとこって、結構いるらしいよな。自殺者」  といっても、俺は話を面白おかしく語る才能はないので、それまでだが。  だが、幽霊の噂は本当だ。おっちゃん一人じゃなく、他にも多数目撃者がいるんだとか。 「マジ、何であんなとこで死ぬかね。幽霊は幻覚かもしれないけど。自殺者の話はほんとらしいんだ。実際、当時働いていた人の証言もあるしな」
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