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今、俺とAはカウンター席で向かい合っている。顔と顔を向けている。手を伸ばせば届く距離。
……奴は言った。こんな感じなんだと。多少、あちらの見方が変わる場合もあるだろうが。
ようやく、Aの言いたいことが分かった。凝視してるのはカメラじゃないんだ。
「まるでさ。カメラの向こうの……オレを見てるようなんだよ」
「……」
Aが見てたんじゃない。Aは、見られていたのだ。その女に。
006
「へへっ、その女。長い黒髪で、色白で、胸も出てて見かけはよかったな。だからか。綺麗な女がこちらを睨み続けてる。結構、迫力あったな……噂になるけどさ。盗撮で自殺した女性いるらしんだ。それなりの数で」
「そ、そうなのか」
俺は、つまらない返事しかできなかった。
「あくまでも噂だけどな。撮られたことがショックで自殺。しかも、映像は大勢の奴らに、欲望に狂った男達に渡るわけだからな。そりゃ、女性からしたら最悪だろうよ。……それをさ、思い知ったよ。今でも、あの顔が……いや、目が、脳裏に浮かんでくる」
俺は、頭を抱えるAの苦悶に何もできなかった。
だって、何が言える。
一瞬、盗撮ものと聞いて興奮した下賎な俺が。何が。
「こ、ここ、おごるよ」
「くだらない同情するな」
「で、でもよ」
「いいから。今日は……ありがとな。久々に飲めて助かったよ」
007
結局、Aの大人な対応に俺の方が救われた感じであった。
何だかなぁ。俺が励まそうとしたのに、こっちがされちまうって。
それから数日後、奴がメールで会社を辞めたと教えてきた。
あの歳で再就職は大変だろうが、今の仕事は罪悪感とは無縁らしく、満足してるらしい。
007
それから数ヶ月後。
俺は当時は深々と悩んでいたくせに、この頃になるとすっかり忘れてしまっていた。我ながら情けない。
それを叱責するように、メールが届いた。
差出人は不明。
おいおい、一体誰からのメールだ。画像が添付されてるぞ、と開くと。
「ん?」
画像には、Aが映っていた。目を見開き、ぽかん、と情けなくクチを開けた奴の姿が。
背後は薄暗く、会社の中なのか、VHSの入った棚や、カメラなどの機材がある。
「……これって」
差出人は不明となっていたが、誰が送ってきたのかは分かった。
まるで、ブラウン管の中から、ビデオを見ているAを、見ているような写真。
「………」
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